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logとか突発的に書いたものを掲載しています。

coeterno

「イサミ」


双子の弟の名前を呼ぶ。愛しい愛しい俺の片割れは俺の呼びかけになど応えず読書中だった。
最初はイタリアンレシピの蔵書か学習参考書か?とも思ったが、イサミの表情で直ぐにそれは違うと解る。
双子とは便利なもので、意思疎通が顕になくとも表情や声で解るのだ。俺も思わずイサミの読んでる本に視線が行く。
小説のようで何やら可愛らしい少女の挿絵何かが入っているが………。

「おい。イサミ?」
「………………」


凄い集中力だ。実際、料理に於いても集中力が切れない方がイサミだったりする。周りからは意外や意外と評されることも少なくはないが事実だ。
けれど何かこれは凄く―――――ムカつく。兄の呼びかけにも気付きもせずにパラパラと本当に読んでいるのか疑わしいがページを捲る手は止まない。
俺はおもむろにイサミの読んでる本を取り上げた。


「…っわ!?に、兄ちゃん!??」
「随分楽しそうに読んでたな?俺の声も聞こえないくらいにそんなにこれが面白かったか?」


後半はもしかしなくとも皮肉たっぷり入れて置く。


「う…ごめん………」


何故か落ち着きない弟は、早く本を返してよとせがむが、これでは俺の自尊心が許せない。


「駄目だね。キスしてくれなかったら赦さない」
「へ!?キ、キス!???」


何を今更。子供の頃からお互いをあやすようにもどかしいフレンチキスをしてきた仲なのに。
そう言えばイサミは、観念したかのようで、頬に暖かい唇の感触が降りてきた。
瞬間、イサミの腕を自身に引き寄せて至近距離にお互いが近付く。


「っ、に…」
「お前は…ったく。キスだったらコレだろ」


そうして戸惑うことなくイサミに口付けた。啄ばむように唇を舐めたり食めば、抵抗力に弱いイサミからおずおずと口腔への侵入を可能にしてくれる。
クス、と嘲笑が漏れたのも束の間、まさか据膳を逃す俺でもないので、舌を弟のものと絡め合っては離れを繰り返した。
数分程に経つとイサミは耐え切れないと でも言うように腰が砕けたようだった。
慌ててすかさず恋人の腰を支える。


「へへ。ありがとう、兄ちゃん」
「可愛い弟の為だからな。他の奴らなんて真っ平だ」


ところで、と。閑話休題として先にイサミが読んでいた小説を手に取る。


「あ!それ返してよ!!」


腕の中でイサミが暴れるが構うものか。
文字の羅列を凝視すると、どうやらライトノベル――――と言うより少女を対象にした感じの如何にもな寒々しい恋愛小説だった。


「………」


イサミは羞恥からか顔を下に向けて俯いたままだ。
弟にこんな趣味などない事は双子の兄の俺が良く知っている。こんな悪戯心を寄越すのは、遠月学園寮生徒しかいない。


「誰に借りた?」
「あ、あの………」
「怒らないから答えるんだ。イサミ」

少し 嘘を吐く。怒らないと言ったのは本心からではなかった。
弟、俺の大事な半身のイサミの心を占領するのがもし別の男であったら…、そう思うと馬鹿みたいに嫉妬でぐちゃぐちゃになる。

俺の形だけの言葉に安堵したのかイサミはぽつりと。
「田所さん」と答えた。
意外な相手に俺は目をぱちくりとさせて、ぽかんとしてしまう。


「は?あの子が何で?」
「彼女、僕の数少ない相談相手なんだ。その―――――恋愛の」


イサミの恋人は現在進行形で俺しかいない。では田所恵に俺の話を?


「ご、ごめんなさい。兄ちゃん…僕、こんなだし大体男だし。不安に思っている事を田所さんに相談したら愛読している本にヒントがあるかも、って…………怒ってる?」
「少しな」
「ええ!だってさっきは、「イサミ」


彼の言葉を遮り代わりに俺が言葉を紡ぐ。


「不安に思っている事なら真っ先に俺に言えば良い。他の誰かじゃなく、俺に」


俺では頼りないか?とも呟けば、案の定イサミは首を横にブンブン振って否定した。
そう。いつだって言えば良い。





こんな在り来たりな小説家の書いた小説なんかより、俺自身から答えなんて予め用意されているのだから。



end.




(永遠に共存する)>>title by QuoVadis